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FIVE NEW OLD/INTERVIEW & EQUIPMENT REPORT

FIVE NEW OLD

ブラック・ミュージック、ソウル、オルタナティブR&Bなどの要素を昇華させ、独自のポップネスを体現するバンド、FIVE NEW OLD。“ONE MORE DRIP”(日常にアロマオイルの様な彩りを)をコンセプトに活動を続ける彼らは、以前より観客がヘッドフォンを装着して参加する“サイレント・ライヴ”といった試みを自身の活動に積極的に取り入れてきた。2021年3月には、楽器専門店が一堂に会し渋谷にグランドオープンした総合旗艦店、IKEBE SHIBUYAのイベントスペースであるイケシブLIVESにて、彼らが蓄積してきたノウハウがコラボレーションするイベント“FIVE NEW OLD × VOX Special Live”を敢行。ここではその際に活用した機材についてレポートするほか、先日にリリースされたFIVE NEW OLDのニュー・アルバム『MUSIC WARDROBE』について、HIROSHI(Vocal, Guitar)とWATARU(Guitar , Keyboards)に話を聞いた。

 

自宅で楽しめる機材を使ったっていう点が大事(HIROSHI)

 

──まずは先日、2021年3月28日にイケシブLIVESで開催された“FIVE NEW OLD × VOX Special Live”の感想から聞かせてください。

WATARU(以下W) このイベントは“サイレント・ライヴ”がテーマのひとつで、ステージ上においても、ライン信号を活用してアンプからは音を出さない手法を取ったんです。このノウハウについては、自分たち自身もすでに何度もトライしていて、そのやり方に則ってやらせていただきました。ちなみに、今回の機材については、VOXのアンプ・ヘッドMV50の音が、手のひらに乗るくらい小型なのにめちゃくちゃ良くて(笑)、びっくりしました。

──プリアンプに新真空管Nutubeを搭載した超小型のアンプ・ヘッドですね。

HIROSHI(以下H) 今回のイベントって、VOXというブランドが持つトラディショナルな側面、そして“VOXの今”っていうコンセプトもありましたよね。加えて今回、僕たちが使用した機材は、これから楽器を始める人にも手に取りやすいものですし、自宅で楽しめる機材を使っている点が大事だと考えました。ライヴハウスまで行かなくても、皆さんが家で楽しめるものを使って演奏することで、しっかり楽しんでもらえるライヴが可能なんだよって伝えたかったんです。“暮らしの中での音楽”っていう意味で、何かを感じ取ってもらえたら嬉しいですね。

──ギターに関して、WATARUさんにはBobcat S66 with Bigsby を使っていただきました。

W  Bobcat S66 with Bigsbyについては、音作りがすごくしやすいことが印象的でしたね。一般的なセミアコが持つ暖かい音色はすごく魅力的で好きなんですけど、Bobcat S66 with Bigsbyは、さらに幅広く音作りができたのが驚きでした。あとはBIGSBYが付いていて見た目もかっこいいし、惹かれるポイントが多かったですね。そういえば、3ピックアップでシングルのセミアコってあまり存在しないですよね?

──確かに! 一方、HIROSHIさんにはVOX Bobcat V90を活用していましたね。

H 僕にとっては、楽器って見た目が大事一番だと思っているんですよね。実際、僕自身、ステージのセンターで歌いながら弾くっていう、最も目に触れるポジションにいるという自覚があって。だからこそ、自分をより素敵に魅せてくれるギターが好きなんです。そういう意味でも、チェリー・レッドのVOX BOBCAT V90は、見た目にもすごくショーアップさせてくれるものだったし……あとは僕、セミアコはやはりP90タイプのピックアップが載っているモデルが好きなんです。

W いいよね!

H もちろん、ジャジィなものを弾くときにも真価を発揮する一方、今回は「Fast Car」(アルバム『Emulsification』収録)っていう、少しオルタナティブな曲をプレイしたんですけど、そういった曲に対しても、ちゃんと歪みがついてきてくれるんですよね。ファズの荒い歪みにもちゃんと対応してくれるレスポンスの良さがあったんです。あと、歌いながらギターを弾くときは手元を見ることができないから、ネックのフィーリングが自分の手の感覚にどれぐらい馴染んでくれるかが大事で。そういう意味では、初めて触った瞬間から弾きやすいなっていう感覚がありましたね。

W 「見た目がカッコいい」「音が良い」「使いやすい」って最高ですよね。それが僕らの本音の感想です。

 

インスピレーションが沸く場所で、自分たち自身が“ONE MORE DRIP”しないといけない。(WATARU)

 

──今回のライヴでは、観客はヘッドホン、そして演者はイヤモニという、アンプなどを鳴らさないという状況でしたが、“背中からアンプの音圧を感じる”みたいな感覚は皆無ですよね。そのうえで、自分たちなりに楽しむように状況を作っている点が印象的でした。

H 10年間にわたって活動してきたなかで、おっしゃるとおり、僕らも背中から音圧を感じて育ってきたので、その面白さもわかります。でも同時に、僕らはデスクトップ・ミュージックが当たり前になっている世代なんですよね。制作中はヘッドホンをしながらビートを感じていたりもするし、どちらの良さも経験しているんです。そういった意味では、制作中にみんなでジャムっている様子をお客さんに見てもらっているような感覚なのかな。ステージに立っている以上、今までのライヴでやってきたようなパフォーマンスで魅せたいんですけど、ちょうどその中間ぐらいのことがヘッドホン・ライヴで行なわれているっていう感じです。エンタメ的なパフォーマンスやステージングっていう側面もあるけど、それだけじゃなくて、制作の裏側も見えるような、ミュージシャンのテクニカルな部分も近い距離で楽しんでもらえるっていう。

──そもそも、ライヴ会場だけでなく、さまざまな場所や環境でライヴを行なう“Current Location Concert”というコンセプトに取り組もうと思ったきっかけは?

H 僕ら自身、ライヴハウスで育ってきた人間なんですけど、音楽って必ずしも……というか、むしろ大多数の人がライヴハウスで聴くわけじゃないですよね。そのなかで、バンドだけがライヴハウスにずっと居座り続けるのってどうなんだろう?って感じていて。もちろん、その文化をリスペクトしているからこそ、それをもっと広げて、“ライヴに行ってみよう!”って思ってもらえるきっかけになればいいなとも思っているんです。僕たちのバンド・コンセプトが“日常にアロマオイルの様な彩りを”っていうことでやっていて。いろんな場所で音楽を鳴らして、日常をドラマチックにするために音楽を聴いてほしいって常々言っているからこそ、自分たちもいろんなところに出向いて演奏したいよねっていう考えが発端なんです。最初は友達の美容室で演奏させてもらったりとか、あとはタイのトゥクトゥクに乗りながら演奏したりとか。その延長線上として、さらにショウアップしたものにしていこうという流れのなかで、サンシャイン60の展望台を使ったり、あとはポップアップストアにしちゃおうとか。そこでDTMを活用してリアルタイムで曲を作ったり、ミュージシャンのクリエイティブがもっと近いところにあるんっていうことを伝えて、リスナーに感じてもらいたいんです。

W プレイヤー目線で言うと、それにこそ音楽の可能性を感じるし、新鮮なんですよね。あと、そのシチュエーションでしか生まれない表現もかなりあると思っていて。インスピレーションを沸かせてもらえるような場所で、自分たち自身が“ONE MORE DRIP”しないといけないかなとも思っているんです。

──ヘッドフォンでライヴの演奏を聴くと、ヴォーカルの息遣いまですごくクリアに聴こえてきますよね。それって、お客さんにとっても新しい体験なんじゃないかなと思いました。

H 確かに。それによって、演奏はシビアになりますよね。ただ、僕らはライヴハウス育ちでもあるので、やはりステージの上にいる以上、“ライヴ・モード”になっちゃうんですよね。理想としては、演奏で職人魂みたいな面を見せれたらいいなと思うんですけど、僕の場合、人間的というかキャラクター的にも楽しませる方向に行くという(笑)。それについては、自分のなかでは課題というか、もっと両立したいとは思っているんですけどね。結局僕らも人間なので、完璧な演奏ができない時もあるけど、それはそれでライヴの良さとして楽しんでもらうっていう……言い訳をしています(笑)。よりシビアに音を聴かれるという意味で、演奏のクオリティをあげなくちゃいけないっていう、僕らとしても修行にはなりますよね。

W それこそ逆に、お客さんがヘッドホンをしているなかで、演奏中にHIROSHIだけがイヤモニを外して、お客さんのクラップだけで歌ったり、そういう状況を楽しんだりしていて。それはそれとして、全然いいじゃない!って思うんですよね。

──いずれにしろ、このような手法はどんどん進化していくだろうし、可能性を感じます。コロナ禍に入って、ライヴを観る機会も減らさざるを得ないという状況もあったりとか……そういう時代と寄り添っている感じもします。

H それについて、当初はあまり考えていたわけではなかったっていうのが正直なところですね。本当に、“どんな場所にも音楽はある”っていうことを伝えることが、たまたま時代と重なったという。でもその上で感じたのは、どれだけ配信ライヴが可能になっても、やっぱりその現場に居合わせて何かを起こすっていうことの尊さは替えが効かないものだなっていうことなんです。逆に、例えば、僕たちの「Vent」っていう曲は、風船をモチーフにしたジャケットなんですけど、配信ライヴのときにコメント欄で、ファンの人たちが絵文字の風船を出してくれて。自分たちも想像していなかった新たな演出を、デジタル上でやってくれる場面が生まれたんですよね。あとは「Hallelujah」だとジャケットと同じく花束を絵文字を出してくれたり。そうやって、お客さんが新しいカルチャーを生んでくれたり、相互で良い関係を作れているって感じています。

──リスナーと自分たちの行動がシンクロすることでミラクルが起こるという。

H 自分も年を重ねていって、若い人たちから新しいカルチャーがどんどん生まれていく中で、それを遠目で見るのではなくて、そこに片足を突っ込んでみたいって常に思っていて。そういった、時代に対しての向き合い方を常にアップデートしていきたいっていう思いはあるかもしれない。それは今話していて改めて気づきました。

W 僕らメンバーだけじゃなく、スタッフのみんなにまでその考えが伝播していって、みんなで面白がっちゃうっていう(笑)。そして、それがいつの間にかスタンダードになる……そういったことは今までにもよくありました。そうやって何か新しいものを自然と取り入れるきっかけをHIROSHIがどこかから見つけてきて、それをFIVE NEW OLDとして形にするっていう作業の連続なんですよね。それは曲作りにも同じことが言えます。

H あと、自分たちが憧れた音楽があって、それを自分たちがやることによって、“世に中にはこんな音楽もあるんだ、ほかも聴いてみよう”って思ってもらえるようなハブ(HUB)になりたいって思っていて。もちろん、自分たちの音楽自体を好きでいてほしいっていう希望はあるんですけど、それよりも、僕たちを経由して、もっと自分の知らなかった世界に行ってほしい。その気持ちのほうが強いんです。それは今も変わっていません。僕たちの音楽性の幅がどんどん広がっていくのも、僕たちのことを好きになってくれた人が、新たな音楽を発見してくれると嬉しいからなんですよね。

 

僕たちを経由して、自分の知らなかった世界に行ってほしい。(HIROSHI)

 

──今おっしゃっていただいたことは、まさにFIVE NEW OLDの音楽性にも現われていますよね。

H そうですね。元々、スケートカルチャーが好きだったっていうところもすごく大きくて。さらに中学時代はミクスチャーが好きだったし、ヒップホップも聴いていたなかで、サンプリング文化っていうものがすごくカッコいいっていう刷り込みがあって。だからそういった新しいものを取り入れて作ったり、そのモチーフになっているものを、みんなに提示できたらいいなっていう思いはずっと持っています。例えば、今回のアルバム『MUSIC WARDROBE』でいうと、The Cure の「Friday I’m In Love」の歌詞を引用している部分があるんです。そういったことも、僕たちを通して知ってもらえたらいいなって。

──サンプリングということに関しては、例えば「Breathin’」のループ感に現われていますよね。

H 指摘してくださった部分、実はiPhoneで録ったんです(笑)。

W そうなんですよ。iPhoneで録った素材をサンプリング・シンセに取り込んで、それをさらに加工して鍵盤で音を足して重ねていったんです。

H チョップしているからわからないんですけど、iPhoneで録っているので、空調の音とか、SHUNとHAYATOの話し声も入っていて(笑)。サンプリングのピッチを上げてボイシングすることによって、その声や空調の音も一緒になって加工されているんですよね。レコーディングで録り直そうともしたんですけど、やっぱり何か違う印象になったので、そのまま活用しました。

──バンド・アンサンブルで構築された曲やサンプリングをフルに使った曲など、曲ごとにさまざまなジャンルの要素が含まれますよね。逆に言うと、選択肢が無限大すぎて、アルバムとしてまとめていくのはすごく大変だったのでは?

W そうですね……でも、それよりもまずは、やっぱりフィーリングの部分が大きいというか。このアルバムに関しては、自分たちの気持ちや感情など、いろんな思いを混ぜ込んで最終的には“楽しくやろう”みたいな側面があったんです。そういった部分がこの作品作りに色濃く反映されているっていうことは自負していて。

H 確かに“どういった場面で聴いてほしいか”とか、“何を伝えたいか”っていうことをまとめることは大変です。でも、そこさえ決まっていれば、どういうサウンドにするかについては、それほど困ることはないんです。もちろん、制作のなかで手探りすることもあるんですけど、そこにハマるものを考えたり、“あえて異物を入れる”っていう作業は、むしろ実験的で楽しいんですよね。

──イメージの軸がしっかりしていれば、あえてぶち壊してみたり、いろんな選択肢が生まれますよね。

H そうなんですよね。あとはそのイメージに対して“サンプリングを使う”とか、逆に“サンプリングじゃなくて生にしたいんだよね”とか、アプローチの仕方を考えればいいんです。

──「Summertime」のような、いわゆるバンド・サウンドも際立っています。

H この曲はアコギを持って作りました。CMのタイアップということで、15秒間の中で伝えられるサビを作るっていうところからスタートして。クライアントさんとお話ししながら曲作るっていうのも初めてでしたね。

W  基本的には曲に対する絶対的なイメージをHIROSHIが持っていて。それをどういった形で引っ張り出すかっていうことは意識しています。基本的には、ふたりとも一筋縄じゃいかないような感じが好きだったりするし、お互いにカウンターカルチャーに対する気質があるので、結果的にそういった面がポイントになって構築されていくことが多いですね。

H 基本的には、僕が“線”を書いて、WATARUが“色づけ”をしてくれるっていう役割分担は高校生の時から変わらないかな。

──それこそ、バンドのメンバーで音楽を作る良い点ですね。『MUSIC WARDROBE』では、幅広いジャンルのサウンドが内包されていますが、FIVE NEW OLDっていうフィルターを通すことで一貫性が出ていますよね。加えて、一見ポップなんだけど実は綿密に構築されていたりとか、逆に感覚を大事にして作った曲など、その辺りのバランス感が絶妙です。

H ありがとうございます。前作『Emulsification』から今に至るまでに、やっとそれをモノにできてきたかなって思えるようになってきたんですよね。バンド初期の頃はポップ・パンクとかエモ寄りの曲を作っていて、そこからブルー・アイド・ソウル的なものだったり、ブラック・ミュージックっていうものを取り入れたときに、どうしても曲自体が乖離していく感覚がすごくあって。メンバーたちは“HIROSHIが歌えば、それがFIVE NEW OLDになるんだよ”って、今でも言ってくれるんですけど、そこに自分の歌唱スキルも追いついていなかったと思うし、そこで苦心した時期は長かったんですよね。ジャンルの方向性を決めたほうがいいのかなって思ったこともありますし、僕自身、他のアーティストさんが作った、まとまりのある作品やコンセプト・アルバムも好きだったりするし。でも、そういうことに対して“どうでもいいや!”って思い始めた頃から、次第にまとまりが出てきたんです。何をやっても自分たちのものに持っていけるっていうことが感覚的にわかってきたっていう。

W ずっと一緒に作品を作っていくなかで、確かにいろんな試行錯誤はあったと思います。でも、最近はそんなことも忘れていて、確かにそうだったな……って今思い出したくらいですね(笑)。

──では、今後の展望は?

H 1年かけてようやく『MUSIC WARDROBE』を完成させて、この作品を皆さん聴いていただくことが嬉しくて。4人が一体になって作ることができたアルバムなので、この時代の中で、寂しさとか孤独を感じていた人たちに寄り添えたらいいなって思いますし、本作にともなうツアーが久しぶりなので、ワクワクしていますね。やはり側に行って寄り添えるような音楽を作りたいって思っているので、次はツアーで会いに行けることが嬉しいですし、今回はタイアップの曲も収録されていて、今まで知らなかった方が僕らの音楽を耳にしてくださる機会も増えていると思うので、やっぱりアルバムでこんな音楽があるんだっていうハブ(=HUB)としての存在として、もっともっと知っていただきたいです。今はライヴを行なうことが難しい状態ですけど、そんな中でも、そういう動きを止めずに、より大きな場所を目指してやっていくっていうことは、バンドの姿勢として変わらずやっていきたいですね。

W 今回のアルバムは16曲っていう大容量に仕上がったということで、聴いてくれる人の日常に寄り添うっていう部分では、さまざまなシチュエーションで聴ける、言い換えれば“身につける=WARDROBE(ワードローブ)”ような感覚で聴いてもらえる曲がたくさんあると思うんです。そういった曲を皆さんにちゃんとお届けしたいですね。あとはライヴで演奏することによって、その曲たちが違った顔を見せていくんですよね。ライヴによって曲が育っていくっていうことも楽しみですし、このアルバムは僕たちの新たなスタートラインなので、ちゃんと自分たちが高みに登れるように、精一杯、足場を崩さずに登って行けたらいいなって思います。

 

EQUIPMENT REPORT

Special Pop Up VOX ~Then and now~/FIVE NEW OLD × VOX Special Live

2021年3月28日(日) イケシブLIVES(IKEBE SHIBUYA 1F)

 

左から、WATARU (Guitar , Keyboards)、SHUN (Bass)、HIROSHI (Vocal, Guitar)、HAYATO (Drums) 。
HIROSHI(Vocal, Guitar)
WATARU(Guitar , Keyboards)
SHUN(Bass)
HAYATO(Drums)

 

ノイズキャンセリング機能搭載のワイヤレス・ヘッドホンVOX VH-Q1観客のVOX VH-Q1に信号を供給するために活用されたARTの 6チャンネル・ヘッドフォン・アンプHEADAMP6。

ヘッドフォンを介してステージ上の演奏を観客に届ける“サイレント・ライヴ”であるが、今回は、ノイズキャンセリング機能搭載のワイヤレス・ヘッドホンVOX VH-Q1を観客が装着するという形でライヴが敢行された。

ギターやベースに関しては、VOX製の小型アンプMV50シリーズ(ギター)やMINI SUPERBEETLE BASS(ベース)、そしてドラムについてはRolandの電子ドラムV-Drums Seriesからライン信号でミキサー卓に送り、演奏者はイヤモニで全体のサウンドをモニタリングするというシステムで構築。ヘッドフォンを外すと、ステージ上もフロアも、HIROSHIの歌声以外は音がまったく鳴っていないという空間でライヴが展開される。

本編は「Black & Blue」からスタート。HIROSHI(Vocal, Guitar , Keyboards)は、手元にKORGのFMシンセサイザーopsixを置き、ギターに持ち替える際はVOXのBOBCAT V90を使用。楽曲によってギターとキーボードを弾き分けるWATARUであるが、エレキ・ギターに関してはBOBCAT S66 WITH BIGSBY、そしてキーボードは新真空管Nutubeを搭載したステージ・キーボードVOX Continentalを活用。曲間のMCでは、VOX Continentalのサウンドを絶賛していたが、本機の持ち味は、ヘッドフォンを活用した今回のライヴだからこそ、より伝わったのではないだろうか。

SHUN(Bass)はティアドロップ型のボディ・デザインが印象的なVOXのベース、VBW-3500を活用。ルックスはレトロな印象を受けるVBW-3500であるが、レンジが広くハキハキとした低音を聴かせており、シンセなどを多用した現代の音楽の中でも、しっかりとしたベース・ラインが見て取れた。「Fast Car」では、ピックによるルート弾きもタイトで心地よく響かせていた。

ヘッドフォンを活用するとで上質な演奏とサウンドで観客を魅力した彼らであるが、終盤の「Vent」では一転、場内のメイン・スピーカーから音を鳴らし、ヘッドフォンを外しても楽しめる空間に激変、このご時世、席を立つことはできないが、ハンドクラップをするなど、観客それぞれの感じ方で楽しめる空間に包まれた。

本編はこれにて終了……の予定であったが、ライヴ中にちょっとしたアクシデントが起こったことを察知していたメンバーが、最前列にいたそのファンの方を気遣い「Please Please Please」をプレイ。こういった場面も“生”の現場だからこそ生まれた瞬間であろう。

今回のようなヘッドフォンを活用した“サイレント・ライヴ”は、音量など会場による制限を超えてライヴ空間を作り出せるという意味で、とても有意義な形態である。むしろ、各楽器パートやボーカルの息遣いまで“見える”サウンドなど、新たな次元で音楽の楽しみ方を共有できるツールであると断言できる。ライヴという表現空間に対して、新たな可能性を示唆するバンドの取り組み、音響/楽器メーカーの技術力、そしてライヴの現場となるロケーションが合致したとき、より進化した次世代の音楽の楽しみ方が生まれるのである。

 

 

 

SET LIST (2021.3.28.@イケシブLIVES)

  1. Black & Blue
  2. Stay (Want You Mine)
  3. What’s Gonna Be? – Sunshine
  4. The Dream
  5. Chemical Heart
  6. Fast Car
  7. Vent
  8. Please Please Please

 

HIROSHI’s GEAR

今回のステージでは、1960年代のレトロ/ヴィンテージ感を再現し、ソープ・バー・タイプのピックアップを搭載したVOX製のBOBCAT V90をメイン・ギターとして活用していた。

 

 

メイン・アンプは、コルグとノリタケ伊勢電子が開発した新しい真空管Nutubeを搭載した、VOXのMV50 ACを活用。信号はRadialのJ48(DI)を介してPA卓へ送っている。キャビネットは使用せず、アンプについてはこのシステムのみで完結しているのが驚異的だ。

 

手元には、KORGのFMシンセサイザーopsixを用意。

 

WATARU’s GEAR

WATARUはシングルコイルのピックアップ3基搭載し、ビグスビー・ヴィブラート・テールピースをマウントしたVOX製BOBCAT S66 WITH BIGSBYを活用していた。

 

この日、ギター・アンプとしてWATARUがチョイスしたのは、新真空管Nutubeをプリ・アンプに搭載したVOXのMV50 ROCK。HIROSHIと同じく、キャビネットからはギターの音を出力せず、本機のラインアウトからDIを介してミキサー卓に直接信号を送る。

 

 

WATARUの立ち位置に設置されたキーボード類。上段はKORGのモノフォニック・シンセサイザーMS-20 FS、下段は新真空管Nutubeによるバルブ・ドライブを搭載したステージ・キーボードVOX Continental。そしてVOX Continentalの上面パネルにはKORGのelectribe samplerが置かれていた。

 

ステージ上には、VOXのAC30が置かれていたが、実際にギターのサウンドを出力していたのは、アンプの上に乗せられたVOX MV50 ROCKである。

 

 

SHUN’s GEAR

今回のライヴにおいて、SHUNはVOXのVBW-3500を手にした。1960年代後半に独特の存在感を放ったティアドロップ・ベースを現代に再現するモデルで、抱えた姿からはスタイリッシュな印象を受ける。また、本器ならではの、音の粒が見えるハリのあるサウンドでアンサンブルを支えた。

 

 

ベースのサウンドについては、Nutubeを搭載したミニ・スタックMINI SUPERBEETLE BASSからライン出力によりPA卓へ信号を送っていた。

 

SHUNがプレイするキーボード類。上段よりWALDORF/Blofeld Desktop White(デジタル・シンセサイザー)、AKAI/MPX8(サンプル・プレーヤー)、Moog/Subsequent 25(パラフォニック・アナログ・シンセサイザー)。