old picture of artist, Vic Flick, beside current picture of him playing accoustic guitar
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Vic Flick

黄金のギター・トーンを持つ男 − Vic Flick

Vic Flick、その名は1950年代のロックンロール映画でのキャラクターを作り上げた名のように聞こえるが、実際には真のギター・レジェンドなのである。その確かな演奏テクニック、音楽に対する造詣の深さ、そして譜読みのスキルにより、無数のミュージシャンから絶大な信頼を得て、彼らのディスコグラフィを自身のギター・プレイで美しく飾っている。大物アーティストとの仕事も多く、ざっと挙げるだけでもTom Jones、Shirley Bassey、Dusty Springfield、Cliff Richard等々、挙げ出せばキリがない。Vicの名が多くの人々に知られているわけではないものの、ほとんどの人々は彼独特のギターを耳にしているのである。 間違いなく世界で最も有名なギター・リフの1つであり、ダークでミステリアスな雰囲気がある「ジェイムズ・ボンドのテーマ」を弾いたのが、Vicなのである。シリーズ第1作『ドクター・ノオ』のサントラ制作、1962年のことである。 その硬めのサーフ・ロック風のトーンから、Vicは有名ブランドのソリッドボディのギターを使っているのではと思われがちだが、あのトーンは彼が長年愛用しているClifford EssexのParagon De Luxeというフルアコに、DeArmondのスライド式ピックアップを搭載したものである。 ではアンプは何を? オリジナル・トーン・マシーンにほかならぬVOX AC15なのである!

ギターを始めた頃に影響を受けたアーティストは? 

ギターを初めて手にしたのは1951年、14歳だった頃だ。影響を受けたギタリストはあまりいなくてね、特にイギリスではギター音楽が当時あまり聴かれなかったからね。その中でもCharlie Christian、Barney Kessel、Tal Farlowの3人はイギリスでも聴かれていた数少ないギタリストだった。James Burton、Scotty Moore、B.B. Kingらの影響がまだイギリスに届いていなかった頃だ。その頃私はビッグバンドのレコードばかり聴いていて、その中のギターに耳を集中させていたんだ。Count Basie Orchestraで弾いていたFreddie Greenのようなね。私のリズム・ギターのプレイは彼からの影響があるね。

テレビや映画音楽のレコーディングには、どうやって入ったのですか?

1958年にJohn Barry Sevenに加入して、その頃は4人のバイオリンが加わったJohn Barry Seven Plus FourでAdam Faithのレコーディングに参加したり、John Barry のアルバム『Stringbeat』を作っていて、その頃にロンドンの業界有力者の4人を紹介してくれたんだ。私のスタジオワークのキャリアはそこから始まったんだ。今にして思えば、あの時の出会いが会った人々や場所、タイミング、何もかもがピッタリ合っていて、どのレコーディングでも自分に求められたプレイができたね。

最初にブレイクしたプロジェクトは?

ベーシストのGeorge Jenningと知り合い、その流れでBob Cort Skiffle Groupに入っていたんだ。このグループはPaul AnkaのUKツアーでフィーチャーされていたんだけど、そこで出会ったのがJohn Barryさ。John Barry SevenがPaul Ankaのバックを務めていたんだ。Sevenが初めてメジャーなTVシリーズを手掛けることになって、Barryが私に「Sevenに入らないか?」って誘ってきたんだ。多くのアーティストのバックをやるSevenでプレイするには、譜面が読めないとダメだったからね。

John Barryはハリウッド映画の音楽も多数書いていますが、そこにはどれくらい関係していたのでしょうか?

John Barryの映画音楽にはたくさん参加したね。007シリーズでは『ドクター・ノオ』や『ロシアより愛をこめて』。他には『ダブ』や『恐怖の落し穴』とか。どれも良い経験だったよ。

あの「ジェイムズ・ボンド」のテーマのリフは、すでに譜面になっていたものなのでしょうか?それとも、レコーディング時に何かにインスパイアされたものだったのでしょうか?

ボンド映画のプロデューサーは、ジェイムズ・ボンドのムードに合うような、もっとダイナミックなテーマ曲が欲しかったようで、そこであれを作曲したMonty Normanが見つけたのが、John Barryが昔にアレンジしたショーの音楽だったんだ。レコーディングはすごく大慌てで進行していたから、その急いでいる感じとか力みが入った感じがレコードになって、その感じは50年以上経った今聴いても分かるよね。

その時に選んだアンプがAC15とのことですが、これはどうして?

当時VOXやFnederはロンドンの楽器店と大々的なプロモーションをやっていて、John Barry SevenやShadows、その他いくつかのグループにはギターやアンプがもらえたんだ。その頃使っていたVOX AC15が何にでも使える良いアンプだった。ところがそれは残念なことに高いステージから落としてしまい、何かの角に着地したのか、木っ端微塵に壊れてしまったんだ。それで代わりにAC30をもらったんだ。

書籍『The Music of James Bond』の中で、「あの、ある種ヘヴィなギター・サウンドにJohn Barryも満足していた。エッジが立った、ダイナミックなサウンド… あれは大げさにプレイしたんだ。太いゲージの低音弦を張って、ハードにピッキングしたんだ。ジャストよりもほんの少し前ノリで弾いたから、攻撃的とも言えるようなエキサイティングなジェイムズ・ボンドのイメージによく合ったね」と語っています。 John Barryとのレコーディングでは、いつもそのようにディテールまで意図してプレイしているのでしょうか? 

良い質問だ。どんなレコーディング・セッションでも、プロデューサーやアーティスト、一緒にプレイしているミュージシャンのために自分のベストを尽くすようにしているんだ。色んなミュージシャンがスタジオの世界に現れては消えていったけれど、私はそこに25年以上ずっといたからね、きっとそれが正しいことだったんだと思うよ!

その本ではボンドのテーマであなたが弾いたギターがフルアコのClifford Essex Paragon De LuxeにDeAemondピックアップを搭載したもので、アンプはAC15だとありました!多くの人はあのギター・パートはソリッドボディのエレキで弾いていると思っているかと思います。あのような(硬めの)トーンを作るのには時間がかかったのでは?と思いますが…

DeArmondのピックアップはスライド式で、ネック寄りからブリッジ寄りまで自在に移動できるんだ。そこでSenior Serviceというタバコの箱をスライド部分にハメ込んでピックアップをブリッジ寄りいっぱいのところから動かないようにして、あとは弦のチョイス、弾き方、それからレコーディングしたCTSスタジオの音響、これらが「あのサウンド」を作ったんだ。その他で言えばマイキングかな。50年代とか60年代の映画音楽のレコーディングでは普通に使われていたオフマイクのテクニックで録ったんだ。レコーディングについて詳しいと思っている人のほとんどが、まだ生まれてもいない時代だったってことは、言っておかなくちゃならんね。本に書いてあることを信じるかどうかは、読者に任せるよ。

これまでのキャリアを振り返って、どの時がいちばん良かったと思いますか?そしてその理由は?

そんなのいっぱいあり過ぎるよ。でも、ロイヤル・コマンド・パフォーマンス(英女王後援のチャリティ・イベント。英王室メンバーを迎えて開催)の出演依頼が来た時は最高だったな。